「ありえない・・」






呟けど虚しい。答えてくれるひとなんていない、この五畳半の空間が私の涙でもない、もっと他の何かを誘い出していた。
普通クリスマス前に振るなんてありえんだろう。せめて26日ぐらいにしようよ、もっと欲を言うなら新年が明けてからにしてほしかった。おかげであたしはクリスマスから年末、そしてお正月は全くのひとりぽっちだ。両親は海外旅行、弟は部活のあつまりだとか元中のあつまりだとかいろいろ言って外泊三昧だけど、あれは絶対この前家に来た可愛らしい彼女の家に泊まってるんだ。よくやるよ、わが弟ながら。






何度見たかわからないテレビ雑誌をぱらぱらとめくる。お正月番組なんてつまんない。せめていつも通りのテレビ番組ならあたしも見たいものがいっぱいあっていっぱい笑えて、テレビ三昧とはいえ今よか全然ましなお正月になったかもしれないのに。テレビ雑誌を放り投げた。ケータイを恨めしそうに見る。友達はみんな家族と過ごすか、実家に帰るか、それとも彼氏とたのしく過ごしてるか、だ。誰もかまっちゃくれない。薄情だなあ、おい。一人で呟く。返事は勿論ない。












「・・駄目だ、」一人じゃ気が滅入るのを待つばかりだ。とにかく誰でもいい、駄目元でかたっぱしからメールするか。


















「おい、来たぞ」
「あ、あがってあがって」
包囲網にひっかかったのは宍戸だった。結構仲のいいクラスの男子で、喋る方だ。何人か交えて一緒に遊びに行ったことならあるけれど、二人はおろか、家に呼んだことなんて一度も、ない。そういえば宍戸って彼女とかいるのかな。テニス部の面々ってそう言ううわさ結構あるのに宍戸は聞かないしな・・






「部活なかったんだね」
「まあ正月三が日ぐらいは休ませてもらわねえとな」
ほい、と紙袋を渡された。
「わ、プリンだ。高そうだし」
「ババアがなんか買ってけってうるさくてよ」
宍戸はしゃがみ込んで靴の向きを正した。
(へえ、そういうところはきっちりするんだ)(意外だな)
袋の中に紙が入っていて、レシートかなと思ってよく見ると宍戸のお母さんからだった。息子をよろしくおねがいしますね、ってうーん、そんな関係じゃないんだけど。苦笑い。
「何笑ってんだ、そんなにプリンが嬉しかったか?」一個は俺のだかんな。二つとも食うんじゃねーぞと言う宍戸を小突いた。
やっぱり学校よりかはなんだかぎくしゃくするけれど、一人よりも落ち着く。ふふ、と笑うあたしを見て宍戸が「きもちわりぃ」と言ったのでもう一回小突いた。


















私の部屋のこたつでテレビを見て、二人して笑って。こんなお正月も悪くないかと思い始めたころ、ようやくさっき駄目元でメールした友達のから電話が来た。
テレビに夢中の宍戸を残して、部屋を出る。






「もしもし、おそいよー」
『あはは、ごめんごめんー今からだったら行けるよ、あたし』
「今?うん、来て来てー・・あ、でも宍戸が男一人になっちゃうな」
『え?いま宍戸といんの?!どこ?!』
「え、あたしの家。なんか駄目元でメールおくりまくってたら宍戸がひっかかった」
『マジ?!じゃあお邪魔するわけにはいかないなー』
「ええっちょっとちょっとお邪魔じゃないっすよーそんな雰囲気一ミクロンもないよ」
『ええ〜?そうなの?つまんない』
「ここで宍戸に告られでもしたらオッケー出してアイツのことなんか忘れるのになー・・なんてね!!」
『・・え?忘れられる?ほんと?忘れられる?』
「あはは・・・え、?な、なにどうしたのいきなり」
『ねえ忘れられる?!絶対宍戸にオッケーだす?!』
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、なに?どうしたの?」
『オッケー、って、言う?!』
「え、え、え、え、な、なに(まさかまさかまさかまさか)・・ま、さか」
『そのまさかなんですけど』
「え、え、え、え、え、」












電話を切った。ケータイのディスプレイを見つめる。頭がぐわんぐわんする。なに、ちょっとまって、どういいうこと?いま、あたしは、なにしてるの??の言葉が頭の中でぐるぐる回ってる。


『宍戸、のこと好きだよ』


・・・宍戸が、あたしのことを、すき??な、なに、どういうこと??なんで?ありえない。ありえない・・ありえない?学校で一番仲いいのは?・・の彼氏のがっくんを除けば、宍戸だ。いつもなんだかんだいって喋りかけてくるのは?宍戸だ。ちょ、どういうこと?『皆知ってるのに』って、え?あ、あたしだけしらなかったってこと?あたしだけ知らなくて、それで彼氏のグチきいてもらったり告白の手伝いしてもらったり真夜中に長電話してたってこと?(そういえばあたしの友達は宍戸とメールが続かないって、すぐ切られるって言ってた)(あたしはすぐ返事返ってくるし結構続くのになあ・・なんで?って思ったんだ)














ど、どうしよう。仮にもあたしはつい二週間ほど前まで彼氏がいた身だ。そこで宍戸に乗換えでもしたら(いやいやホントに宍戸があたしのこと好きってきまってないけどさ!!)あたしは只の軽い女だってことにならないか?!


『まんざらでもないんでしょ、。そろそろ幸せ追っかけるのやめて、幸せ受け止める身になってみたら?』


の言葉があたしの周りをぐるぐる回る。まんざらでもない・・うん、まんざらでもないよ。今あたしはこうやってテンパってるけど、死ぬほど嬉しいんだ、ほんとは。ほんとは。












『素直になりな。目の前の幸せに甘える事も、けっこう悪かないよ』
















部屋のドアを開けた。宍戸の背中が見えた。ちょっとさっきとは違って見えて、そんな自分になんだかなあと苦笑いする。宍戸はケータイを見てたらしくて、あたしが入ってきたのに気づくと、「おう」と言って急いでケータイを閉じた。なんだかその顔が赤く見えて、ちょっと気恥ずかしくなる。でもがまん。(が私が言ったってバラしちゃだめだからね!って言ってたし)


こたつにもぐりこめばじんわり、と知らずの内に外の冷気に冷え切ったあたしの体をじんわりとあたためてくれる。足を伸ばしたら、宍戸の足にあたった。宍戸の顔を見たら、ものすごい真顔だったから、あたしもつられて真顔になった。
(「邪魔だよー」って茶化そうと思ったのに!)












「・・・なあ、
「・・・なに?」






即興ラブソング
2007/01/03(あたしが外にいる間にが宍戸にメールで告白を急かしたのを知ったのはまだ後のおはなし。)