「イザーク、残業ヤなんでさっさと今日の分の仕事よこせ」
「それが上司に対するものの頼み方か阿呆」
「・・・偉大なるジュール隊長様、私めは残業がイヤなんでさっさとワタクシの今日の仕事をよこしてください」

俺はさっさと帰れと言わんばかりに睨み付けて仕事はもう無いと半ば唸り声のような声で言った。敵意は通じているのかいないのか(絶対後者なのだろうが)、こいつが飄々とした表情でやったね、と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。










「イザークは」
「・・・さっさと帰るんじゃなかったのか」
「婚約者いないんだねえ」
「(無視か!!)・・・」
「ね」
「・・ああいない、いない!!アカデミー主席のアスランにはいたがアカデミー次席の俺にはいない!!!これで満足したか!!」

「うん、満足したよ」
ギリリと奥歯を噛み締めた。有り得ない音と痛みが奔ったがもう気にとめないことにした。



「さて私はデートに行ってきますよ、っと」
「・・なんだそれは、お前はそれごときの理由で仕事を、」
「もう無いんでしょ?」
「・・・」
「無いって言ったじゃない」
「・・ああ、無い無い。さっさと脳内彼氏とデートでもハネムーンでも墓場でもとっとと行ってくるがいい」
しっしと手を払うとその拍子に書類がぱらぱらとデスクから落ちる。ああ!厭になる!!頭をぐしゃぐしゃに掻きそうになる手を抑えて腰をかがめる。





「残念ながら現実なんだよ」
「ああそうかそうか、そりゃ悪かった」















「現実婚約者じゃなくって脳内婚約者だったらよかったのに」
「                」


















見ざる聞かざる言わざるだ、もう何も考えまい。俺が気を回して残りの仕事をこなしてやっているのをこの女はちゃんと知っているのだろう。俺のプライドやらなんやらのことをあの俺が今までの人生で見てきた中で最も中身のうすっぺらい頭で考慮しているつもりなのだろう。さっきの小さな声も俺には届かないくらい小さな声で呟いたつもりなのだろう。「イザークと結婚できるのなら死んでもう一度生まれ変わるのも悪かないのに」なんて。馬鹿だ、阿呆だ、最低だ。口には血の味だ。もう何も考えまい。





ざるかざるわざる
no sight, no sounds, no words