ギキィ、とドアが遠慮がちなドアの音が聞こえて俺は顔をあげる。 やはり遠慮がちに顔を出した女はひ、と小さく空気を呑み、声にならない声で呟く。 「神田くん」 オレは無理やりベッドから上体を起こす。ギシリ。骨が悲鳴を上げる。頼む、たのむからお願いだからもうすこしだけだまっててはくれないだろうか。 「おまえか」 絞り出す俺の声はやはり掠れていた。多分俺は酷い顔をしている。極太マジックで書いたような目の下のクマ。唇はがさがさ。こめかみには痣。右目の下には、ざっくりと切り傷。束ねられた髪はとびたいところへとんでいる。 「か、神田くん」 「・・見ての通り無事だ」 「それは無事ってい、言わないよ」 「・・・死んで、ねェだろうが」 じわあと女の目に涙が浮かんだ。腕を上げて引き寄せようとするが俺の腕は中途半端なところまでしか上がらない。 女がこわれものにさわるように俺を優しく抱きしめた。じわり。 「・・・泣くなよ」 「なんで、わ、私は女なのかなあ」 じわり。寄せられた頬はあたたかい。 「女の人は、家族を、男の人をまもらなくちゃならないのに」 「・・お前、男尊女卑反対って叫んでたんじゃなかったのか」 「で、でもそうだけど私は、神田くんを守らなくちゃなんないのに」 ぐさり、突き刺さったその言葉は今まで受けてきたどの斬撃よりも深く、深く、深い。 俺こそお前を守らなくちゃいけねェのに。呟いた言葉は最早空気をも震わすことも出来ず。右目下の傷が塩水でもぶっかけたかのようにじわり、じわりと痛んだ。 「 」 名前を呼んだ。肩の震えはとまらない。俺の左目からも涙が出た。
(泣くなよ、なんて言えない。) (俺が泣かしているんだ) じわり、 |