特にいつもとお変わりもなく平穏でもないことを書いた日誌をぱたん、ととじた。
沖田君は(めずらしく)数学のノートを先生に出しに行ってくれている、だからといって別に待つ義理とか必要とか余裕(?)とかないんだけれども、もうなにしろうだるように暑かったからあたしはぐったりと椅子に身を預けて、野球部のグラウンドを眺めていた。






「つきあってください!」
どっからかそんな楽しそうな単語が聞こえたもんだから野次馬根性が染み付いちゃって離れないねほんっと生粋の日本人だよねー!あは!なあたしは、いそいそと窓辺によって、窓から身を乗り出して下をみた。
あたしたちのクラスの下は丁度校舎裏で、グラウンドが隣接してるけど野球部の部室があるから丁度影になってて、告白プレイスとしては最高のロケーション。野次馬根性万歳!マンセー!と目を輝かせたあたしが見つけたのは






「ああー土方君かあ」









たしかに土方君はよくもてる。すんげえもてる。モテモテイケイケである。みんな土方君がどんなにマヨラーかしらないからそんなこと言えるんだけど、っていうかそんなマヨラーなとこいれても十二分にカッコイイと思うけど、とりあえずすんんんげえもてる。
だからあたしはなるほどなるほど、と納得して、それでも野次馬ド根性はしぼむことなくあたしは夏のクソ暑い日にクソ暑い窓辺にへばりつく。



「何やってんでさァ」
「あひゃあ!おおおおおおおきたくん!おつかれさまでございます!」
「(あひゃあって何でィ)・・おつかれさまでございまさァ、ほんっと暑くていけねえや・・で、なにやってたんですかい?」



いつのまにか後ろに沖田君が立っていて、あたしは椅子ごと垂直に30センチほどとびあがった。絶対とびあがった。
・・まずい。すんげえまずい。この個性の濃すぎるクラスの中で唯一(っていうかあと志村くんとかむっちゃんもだけど)一般人で通ってきたあたしなのにこんな野次馬根性露呈してしまいました生きていけません助けて。
そう思って(念じて)たら沖田君は窓から外を除いて、ちょっと顔を曇らせた。(あれ、土方君の邪魔するか、あたしをからかうかと思ったのに)






「・・は土方のアンチクショーが好きなんですかい?」



「ええ?いやいや、滅相もない」






あっそうかそんな見方も出来るのかと今更ながら思い立ったあたしを見て、沖田君が嘘じゃねーみたいだなと呟いた。なんか馬鹿にされてる気がした。












、俺を好きになりませんかい?」
「・・・はっ?」
いよいよ暑さで幻聴がはじまったらしい。やだねーほんと年だね!アハハ!
「ていうか、は俺んコト絶対好きになりまさぁ」
沖田君のにやー、と笑った顔が見える。なんだあーからかわれてんのか。









「だって俺だけ好きとか、不公平もいいとこだ」









沖田君はくるりとあたしに背を向けて、窓から下に身を乗り出して「土方ー!」と叫んだ。
髪の毛に隠れてたし逆光だったし、ちゃんとは見えなかったけど、
たしかに、沖田君の金髪に隠れた耳が赤かった。






・・・やばい、あたし幻覚まで見え始めてる。












「げっ、総悟オメーいつからいやがった」
土方君の声がして、沖田君はまた窓の外に向かって叫ぶ。
「アンタがどこの馬の骨に告白されようがマヨネーズぶっかけられようが興味なんざねえんでさぁー!」
えっちょっと馬の骨とか失礼だよ沖田君!まだ女の子いたらどうするのさ!と抗議する暇もなく、沖田君があたしに背を向けたまんまあたしの腕をぐいっとひっぱって引き寄せた。
「アンタがモタモタしてるスキに、俺ァ前に進まさせていただきますぜ」
土方君がああ?って怪訝な表情してあたしたちを見上げてる。沖田君はにや、と笑って、あれ、ちょっ沖田君近いです沖田君近い近い近い近、












「総悟テンメエー!!!」









いつのまにか視界が空けていて、土方君の絶叫が聞こえたと思ったのにもう土方君の姿は無かった。て、いうか!おきたくん!!






「だあいじょうぶ、絶対俺のこと好きになりやすぜ」
「なっ、ちょ、ちがう!そういうもんだいじゃないよ!」
あーやばいあたしぜったい顔真っ赤だ、かっこわるいなあー、もっとこう、はあ?キスなんて、遠い昔に済ませたのよ・・みたいなハードボイルド、じゃないそれじゃオッサンだよ、もっとこう大人な女の余裕を持っていようと心に決めていたのに・・!



「さあて、モタモタしてる余裕はありませんぜ」
「へ?」
ドダダダダダダと微かに聞こえてくる音。な、なに?わけわかってないあたしを沖田君はよっせいと、え?よっせい?・・って
「ちょっちょっちょっなに?!なにしてんの?!」
「何って担ぎあげてんでさあ、その名もお姫様だ
「いい!さいごまでいわなくていい!ていうか重いからおろして!」
重くねえ重くねえ。
そういって沖田君はあたしを担いだまま窓枠に足をかけた。えっちょっとここ三階なんですけど!と叫ぶ前にがくん、と体が落ちる感覚。最後に教室のドアをスパアンとあけた土方君の唖然とした顔が、みえた。















「ねえ沖田君」
「なんですかい?」
「もしかしたら、もしかしたらだけど」






沖田君のこと好きになるかも。






沖田君は目を丸くして、それから目線をうろうろさせて頭を掻いて、だから言ったじゃねえですか、って全く説得力の欠片もない赤い顔でもごもごつぶやいた。







17★



2007/07/31