「・・ずるいだろ」 「え?」とぎれとぎれに走らせていたペンをとめて、は顔を上げて、俺の顔を見て首をひねる。「どしたの、榛名」くるっと見開かれた目とか、ちょっと口角を上げた柔らかそうな唇とか、かわいい鼻とか、そういうすべてにどきどきする俺はものすごくおかしい、と思う。ほらまた、首をひねってこっちを見るから。 「ずるい」 「ええー?もうちょっと待ってよ、これ、今日中にやっとかないと。これ文化祭の予算表なんだってば。大事なの。だからもうちょっと待って?」そしたら一緒に帰ろう?にっこり笑うにまた、ああ、もう!耐え切れなくなって机につっぷした俺の頭をはあはは、と笑って撫でた。 「ー」 「はいはい今度はなにかな?生徒会副会長は大変なのだよ」 「・・・俺も元から惚れちゃったりしてるんですけど」 「うん、知ってる」 腕の隙間からを盗み見てみたけど、は何も動じることなくやっぱりペンを動かしていた。あの体育祭のときにとぎれとぎれでつっかえたこのセリフも、何度も何度も言ううちにどもらないで言えるようになったのに、心臓はまだばくばく言うし体はあっつくなるし、そして何よりは全くあの日から今日まで動じたためしがない。にこにこと笑って、受け流してるんだか受け止めてるんだかよくわからないあの、大人、の表情でわらうだけだ。のそ、と起き上がると「おっ、榛名選手復活いたしました」とこちらを見ないで茶化された。(くそ、)「なあ、」「ん?・・・」 「榛名君榛名君」 「・・・はい?」 「君はそんなにあたしの邪魔がしたいのかね」 「・・・」 「突っ伏してるだけじゃわかんないぞー」 淡々と言うように聞こえて実は明らかにおもしろがってるの前で、俺は顔から耳から首から全部ゆでだこみたいになって(ああーくそっかっこわりい!!!)机に突っ伏しているだけだ。 「・・・あのーさん」 「はいはいなんですか榛名君」 「・・俺、実はさっきの初キスだったりするんですけど」 「ほほう榛名君意外と硬派ですなぁ」 「・・・(あー本格的にへこんできた)」 「(あらあら)・・・榛名くーん」 「・・・」 「はーるなくーん」 「・・んだよ」 自分でもわかるぐらいガキじみたぶすっとした顔をあげれば、目の前にの顔。びっくりして心臓ばくばくでもうどうしようもない俺には言う。「榛名、手出して。手。」わけもわからず差し出した右手をはぐいって引っ張って、え、ちょ、何してんだ、わ、わわ、ふ、ふにって、あの、やわら、か、い、うお、そ、そんな展開「ちょっとやらしーなあ榛名。なにかんがえてんの。どすけべ。どへんたい」俺がどすけべでどへんたいなら世の中の男全部そうだ!って声を大にして言いたいところだったけどそれもいえない。だって、ちょ、待て、「ばっかだなー榛名」「だ、だれが、」 「こんなにドキドキいってるの、聞こえませんかね?」 俺と同じくらい、早すぎる、波打つその音は、(やばい、うれしい) 「あたしも、榛名に惚れてるんだよ?」 真っ赤な俺にやっぱりは(波打つ鼓動と対極に)平然とにっこり微笑んだ。「やっぱずるいだろ」やっとのことでそう言うと、は 「榛名のほうがよっぽどずるいね」 「んでだよ、」 「だって元希がそんなに可愛くちゃ、もっとどきどきしちゃうじゃん、あたし」 「、」 「はいはいなんでしょう榛名君」 「・・・K.O.です」 「あらあらノックアウトしちゃいましたか」 「・・・されちゃいました」 「あたしはもっと前からノックアウトされちゃってるんだけどねえ」 「!!」
2007/09/24
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