「獄寺ー!」 さあさ、あたしの話を聞いてよダーリン! |
「・・何だよ」 ものっすごーいダルそうな顔してものっすごーい嫌そうにあたしの顔を見る獄寺。でもちゃんと(あたしが前に立ちふさがってるからだけど)校門の前で律儀に自転車をとめてあたしの話を(一応)聞く体制に入ってる。なんていい奴なんだきみは!「なんていい奴だとかいうんならハナっからめんどくせーことすんじゃねえよ」あっ聞かれてました。一瞬あたしサトラレかとおもいました。 蝉がミンミン鳴く夏の下校時、うだるような暑さの中獄寺ははあーっとため息をついた。あたしという名のダムにせき止められた獄寺とは違い、回りの皆さんはいともスムーズに下校道をたどってゆく。みなさんさよーなら!さよーなら!あっさっきの女の子の集団あたしのことガン見してたよへっへー羨ましいだろ獄寺とこんなにしゃべれるのあたしだけだもんな!というチープなうすっぺらい優越感。ばかみたいだ、とは思わない事にした。 「で、何なんだ」 「あのですねー獄寺君!」 「あ?」 「あたしをどこかへ連れ去って頂戴!」 騒々しかった周りの音が一瞬にしてしいーん、と消えた。いや間違い。蝉はミンミンいってる。いーねー情緒あるねえー。そしてまたさっきとは違うざわざわが周りの空気を埋める。無関心から、好奇、みたいな、そんな、かんじ? 「あのなあ、至近距離にいんだから普通に言えば聞こえるだろーが」叫ぶなよ。耳いてえよ。 獄寺君きみはどうしてそういう度胸のあるところがたまに出てくるかなあ?うんそういうとこあたしいいと思うよ!獄寺はまわりのざわざわにまったく意を解さずにあたしへの苦情をつらつら並べ立ててくる。ウホッ負けねえぜ! 「しかも俺今日十代目と約束あるから無 「獄寺が連れてってくんないとあたし死にますどーせツナくんとこには山本いるでしょ?」 「・・お前一人で行きゃいいだろうが」 「一人だとさらに寂しくなってきっと死にます」 「・・他に誰かいるだろ」 「あたし獄寺しか頼る人居ません」これは若干嘘。まあ死ぬとか普通に嘘だけどでもそれと同じくらい気分はがっつり滅入ってた。なんでか?しらない、そんなの。夏だから?あついから?せみうるさいから? 獄寺ははあ、とため息をついてケータイを取り出してちょちょっと操作して耳に押しあてた。「あっもしもし十代目ですか?すみません今日あの例のアホ女の所為で行けなくなってしま・・え?あ、そうですです。え?いえいえいえいえいえ何仰ってるんですか仲いいとかそんなんじゃないです違いますから。ほtの!違いますから!ええ、この埋め合わせは、あの、後で俺の命で償わせていただき・・え?いえこれぐらいしないと俺の気がおさまらな・・え?あ、ありがたきお言葉・・あ、はい、十代目が仰る事には俺逆らえませんから・・はい、大丈夫ですよ、はい、この埋め合わせはコイツにさせますんで、ええ、はい、すみません。では、お邪魔しました」 獄寺はケータイ片手に丁寧に直角90度のお辞儀をしてプッと通話を切った。 「お前、アイスおごれよ」 むすっと自転車にまたがる獄寺にあたしは頷いて後ろに回って自転車にまたがった。 「あと明日十代目にお詫びしろよ」 自転車はちょっと横にかしいだあと、ついっと進んでいった。 「獄寺ーもっと力いれてこがないとよっれよれだよあたし共倒れ転倒とかごめんだからね」 「アホか、おまえが、乗ってっから、おめーんだろうがよ!」 「風はできるかぎり感じたいのよ」 「どこの、天人だ、テメエは!」 あはは、とあたしは笑う。コンビニでアイスと飲み物を購入後、どこへ行きたいんだという獄寺の問いにあたしはハーゲンのふたをあけながら南と言った。南に海があるんだったら北には山があって、ってことは北のほうが高いわけだから南方面は下り坂?と思っていたけれど、日本の複雑な地形なめてました。ごめん獄寺。南へ向かうあたしたちの目の前には大きな坂が立ちはだかっている。あっついじゅうじゅうのコンクリートの上でよろよろとあたしたちは右にかしいだり、左にかしいだりしながら、進む。 「だいたい、オメー、何後ろで、優雅に、ハーゲンくってんだ!」 「えーだって獄寺両手塞がってるからカップアイス食えないと思ってガリガリくんにしたのに」 はい、と身を伸ばしてガリガリ君を獄寺の口元にもっていけば、獄寺はがぶりとかみついて、つめたい水をあたしの左手にしたらせるガリガリくんは見事に歯形がついていた。つめてっ、と獄寺が言った。あたしはあーあこりゃ左手べとべとになるな、とおもった。海がみえた。 「獄寺ー」 「あんだよ」 「あたしもう死にたいよ」 「海で無理心中とか御免だぞ俺は」 「そんなことしないよ獄寺にはマフィアの未来がかかってんでしょ」 「・・どこでもつれてってやるって」 「どこでも?」 「どこでも」 「いつでも?」 「いつでも」 「イタリアがいい」 「そのうちな」 「ねえごくでら」 「なんだよ」 「あたしごくでらのことそれなりにすきだよ」 「知ってるからお前をのっけてここまできたんだろうが」 「そうなの?」 「そーだよ」 海が目の前にひろがった。こんなにまっさお、だったかな。ついにあたしたちを乗せた自転車は下り坂にかかる。からだがふわっとうくかんじ。あたしはこれがすきだ。獄寺も、すっごい、こどもみたいな顔して、ひゅうっと口笛を吹いた。海についたらなにをしようか。夏はまだきっとはじまったばかり。
2007/08/11
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