疾走
   す
    る
     君
      を
       見
        て
         い
          た








「ほんっとバッカじゃないの?君」
バイクのエンジンをかけたまま僕はひょこひょこ僕の居る校門にむかって歩いてくるに声をかけた。
「だってたのしかったんだもん、バスケ。久しぶりにシュートきまったしさー」
「球技大会で骨折って、どれだけはしゃぐんだよ。ほんとバカだよね君は」
ボクがため息をつくとは口を尖らせて、「じゃーヒバリは愛する並盛をはなれてどこいってたのさ。いーんですか、風紀委員さん?」と言った。僕にこんな憎まれ口叩けるのは幼馴染の彼女しかいないので、お得意の『かみころすよ』を使わずに(だって効果が無いことを僕は知っているから)「愛する並盛を守る活動は何も校舎内だけじゃない」といった。「それに学校には草壁もいるし」「ええーっ草壁さんかわいそうだよ・・こんど何か差し入れしよ」
「ホラ、乗るんじゃないの?」
僕がまたため息をついてに言えば、は「あたしの家までお願いします、ヒバリ隊長」と敬礼して笑った。(僕が彼女に甘いのを、彼女はよく承知している)(まったくもって、タチの悪い女だ)











「ヒャッホォオオオオオゥ!」
「うるさい、静かにしないと振り落とすよ」
「せっかくこの世に生まれてきたけん、風は感じたいけー」
「(コイツ・・)・・振り落とすよ?」
僕が他の人なら縮み上がって小刻みに震えるような声色(特に沢田とか沢田とか沢田とか沢田とか)でに言っても、はしらっとして「やってみれば?」と言った。ほんっとこの女振り落としたいんだけど。








「あのねーヒバリ」
「なに」
「男子決勝までいったんだよ。すごくない?」
「どうせ決勝で負けたんだろ」
「なんでそういう言い方すんのーだって相手のクラスバスケ部で固めてきたんだもん、ありえない!」
「うんだからなに」
「あ、そう、でね?みんなすごくてね、あたしが二階からがんばれー!って叫んだらね、下居た山本がね、おう、って言ったの」
「・・」
「こっちみてなかったけど、でもあたしに言ったんだ、っておもったらね、嫌われてないっておもってちょっとうれしかった」
「・・君、彼氏いるんじゃないの?あの爆弾男」
「うん、隼人は、そうだけど、でも」
「・・なに」
「だってあんなにケンカして別れて、いろいろあったのに嫌われてない、っておもってあたしちょっとうれしかったんだ」
「・・・ちょっと、じゃなくてすごい、の間違いじゃないの」
「・・うん」




この女はそういう女だ。不器用ながらも愛を注いでくれる彼氏がいて、しかもその上幼馴染まで惚れさせた上に巻き込んで惚気た上に、元彼のことをまだ純情に、おもいつづけている、とんでもないろくでなしの女だ。




「・・それでも、うれしかったんだもの」
「・・」








僕もも何も言わなくなった。風が耳元でびゅうびゅう鳴った。きっと彼女は、不器用ながらも優しくしてくれる彼氏よりも、長年一緒だった幼馴染よりも、酷くてろくでなしで自己中で我侭な理由で自分を振り回した結果捨てた男に心から惚れているのだ。
ばかだと、おもう。
僕をえらんでよ、とか、痒いし、恥ずかしいし、馬鹿らしくていえないけれど、彼女の方がもっともっともっと可哀想な、馬鹿なのだ。思い出に縛られて、それでも貫き通そうとする馬鹿なのだ。




「ねえ、それって悪いことだってわかってる?」
「・・・わかってる。あたしさいあくな女なんだもの」












僕はスピードを速める。風になってしまえばいい。ほんと。ほんっとこの女振り落としたいんだけど。
(でもこいつが車にひかれて死んでしまったら泣くのは僕だ)(嘘だ、きっと一番泣くのは、あいつなんだろう)




2007/07/19