「うはー!ちべたーい!!」



まさしく、夏!なつ!NATSU!だな!これは!とあたしがこれ以上ないってくらいさわやかな笑顔で青空を眺めているのに、そんな雰囲気をぶちこわす奴が約一名、日陰で腕を組んで立っている。



「ちべたーい、じゃないよ。人を巻き込まないでくれる?」



くそうコイツにはロマンも青春もないのか。だいたい現役高校生が一生に一度しかない青春を謳歌せずこんなステキにナツい青空の下日の光も浴びずに日陰に佇むたアどういうことだ。女子高生か、お前は。「いやーん焼けるうー」「やーだあーあたし朝しか日焼け止めぬってないいー」って体育の授業で日焼けを気にしてことあるごとに日陰に直行する女子高生か。それともモヤシか。モヤシか。そうなんだな、モヤシ



「ったくなんでアンタ日陰にいるわけ?何考えてるかわかんねーやつだなあ」
「君がものすごく失礼なことを考えてることだけは分かったよ」












あたしはプールに漬けた足をバチャバチャさせる。水しぶきははねて、はねて、きら、きら、とかがやく。まさに夏。いいねえ!「・・ガキ。」
そしてそんな風情ある光景を後ろでぶちこわす奴がいる。腹立つなあ!



「てーかアンタなんでそんなとこいんのよ」
「君が連れてきたんだろ。朝応接間から校門ぼーって見てたらあろうことかこの二週間は見てなかった君が居てエッまさかあのが夏休みの講座受ける気になったのか?もしそうだとしたら天変地異だ槍が降るぞ釜が振るぞ、いやもしかしてあいつは模試の判定がEが出て焦っているのかもしれないいやそうに違いないもう焦ってもムダだよご愁傷様でしたって思ってたらいきなり応接間のドアバターンって蹴破ってくる奴が居るから何?かみ殺されたいの?って思ったらそのハタ迷惑な奴は模試でE判定出て焦って講座受けに来た筈の万年サボリ野郎でしかも万年サボリ野郎は腐っても万年サボリ野郎だったわけでいきなりプールの鍵を貸してくれだの迫ってくるから僕の管理なしでは使用できないって事実を述べたまでなのにじゃあアンタもくりゃいいやなんてもうコイツどっからそんな力出てくんだってくらいのバカ力でプールまで強引に引っ張ってきたのは誰?」






うっせーよ!もーコイツ溺死しろ!溺死しろ!とりあえず「D判定だバーカ!」と叫んだらなんだか哀れみの篭った目線とため息を頂きました。そんなのお中元のソーメンよりいらんわ!(お陰で毎日三食ソーメンだよ!)









もー本気でむかついたから、とりあえず水に飛び込んだ。つめたい。きもちいー、って水中から空を見る。鼻をつまむことを忘れない(これしないと鼻が大変なことになる)。っていうか飛び込んでから気づいたけどあたし制服のまんま飛び込んじゃったよ。なんか模試の判定Dだったから母さん激怒して強制的に学校の夏期講習行かされて、着替え持ってないし。「ちゃんと行ったかどうか先生に連絡するからね!」だって。ジョーダンじゃねえや。そんなちっぽけなことでうだうだもがくあたしたちの上に広がる空はやっぱり青くて綺麗。水面がきらきら、って、ひかって、やっぱり綺麗。そのまんま浮力に逆らわずにぷかー、って浮いたら、国立大学A判定の風紀委員の「ねえ、ちょっと」という声が聞こえた。なんでいバカヤロウが。















「チキショー社会ってのはなあ、頭の良し悪しだけじゃあ生きていけねえもんなんでい。適応力とか、順応力が必要なんでい。オメーさんみたいな俺様何様風紀委員様ドS帝王が社会で生きていけると思っちゃ大間違いだぜ!てやんでい!」って言い放ってやったら「なんで江戸っ子なの」って言われた。
・・なんかヒバリクン顔赤いんですけど。熱射病?それとも昨日クーラーつけっぱなしでおなか出して寝て熱でも出たのかい?












「あのさあ、君、」
あたしを指差す。人を指差しちゃいけないんだぜい!「バカか。下見てみなよ・・」一蹴された。
とりあえずなんだ、と思って下を見た、ああ、なるほど



「ダイジョーブ見られていい下着だから今日」
ケロリと言うとヒバリは「ああーもう!」と頭をぐしゃぐしゃ掻いて、ため息を吐いて「君本当に女?」と言った。
「女じゃなきゃブラジャーつけないよ」っていうかヒバリ、憎まれ口叩いても顔赤いからね。説得力とか迫力とか、皆無だからね。っていうかいつまで赤くなってんだよあたしも恥ずかしくなってくるだろうが!ざばあ、と水を吸って重い制服にかまわずプールサイドに降り立つ。ずんずんヒバリのほうに進んでって「ちょっ、おい」うろたえるヒバリの腕をがしっとつかんで、そのまんまもう一度、私は還るべき場所(=プール)へ、

































「・・・・ちょっと」
「気持ちいいでしょ?」
「最悪だよ。上がったら服べたべたまとわりつくの決定じゃないこれ」
「じゃあもうちょっとこうしてたらいいじゃない」水の中だとラクチン。質量ないから。ふわー、て気持ちよく浮かぶあたしにヒバリは容赦なく「質量あるから」と言った。言葉の錘で沈んじまうぜ?!



「ていうかどっちにしろいつ上がっても不快なんじゃない」ぶつくさ言いながらもまだヒバリは水の中に居るので、「案外思い切るのもいいでしょ?」と笑ったら「二度とごめんだね」と言った。っていうか一回もこっちを見てこない。視線は明後日の方向だ。でも耳が赤いので、いろいろバレバレなわけで、そういうあからさまな反応をされるとあたしもはずかしいので、頭まで潜って顔を冷やした。






「ヒバリー」
「・・何」
「講習の担当の先生にあたしの親からの電話の口裏あわせ頼んどいてね」
「・・・、大学行けないんじゃないの?」
「まあまあ、行き着く先は皆あの世で同じなんですから」
そんなもっともらしいこと言ったって全く説得力ないよ。とヒバリは言った。ていうかなんで僕がそこまで。



「キスしてあげるからさあ、」




にやりと笑えばヒバリは「随分安い唇だな」と言った。「夏の大売出し中ですもの」今ならお試し期間ち、、、そこからはもごもごした口の動きになってしまった。ヒバリはちょっと、動かないでよってぼそっと呟いた。やりにくいだろ。





ヒバリの睫毛に水滴がついてて、きら、きら、ひかってて腹立たしいことにすごい、綺麗だ、と思った。






2007/08/18