例えばさんが女で俺が男であるというような普遍の真理は数多く存在する。だからといって全く不満なわけでもないしだってそうでなきゃさんが男になっちまったりするわけだし。性別なんて金さえ払えりゃ性転換でもなんでもして変えることだってできる。でも俺はそういうんじゃなくて、あーっと、なんつーの?どうにもできないことはこの世にゃ実はたくさん溢れてるって、まあ、そういうことを言いたいわけだ。














前はそう思った事はなかった。というより、今もそうは思ってなかったりする。実際は。金が入ればなんでもできるし、何だって買うこと出来るし。金の持つそういう魅力に惹かれた俺はマフィアのオシゴトをこなしながら夫や彼氏に欲求不満なオネエサンの唇を吸ったりセックスしたりして金を荒稼ぎした。一回セックスするだけで五万貰えた。徐々に額は増えていってまじこれやべーよハンパねーよ俺のチンコはそんなに高額かよ金の延べ棒かよと思って確かめたりしてみたが別に普通にマグナムだった。はい、ここ笑うところですよー、っと、まあ、そんぐらいの数字を通帳は示したりした。

人生始めてみるほどの0の多さに困った俺は免許も持たないしがない大学生だったのでとりあえず目に付いた本とかDVD箱買いしたりどこがいいんか分からんがやたら高い船の模型とか買ってみたりしたが、やっぱり要らないものは要らなくてというか一人暮らしの俺の部屋はものすげえ要らないものでものすげえ埋め尽くされて、それでも0の多さはものすげえものだった。
たまにツナたちが遊びに来て「テキトーに座ってくれよ」と言ってコップを探そうものなら「・・えーと・・ごめん山本、」「ん?」「座る場所、ないんだけど」「・・お?」という具合に一人暮らしの俺には特に狭くもなく寧ろ広くて快適すぎる部屋がものすごく狭くてものすごく不快適な部屋に、なんということでしょう!劇的ビフォーアフターしちまってたりした。ので、捨てたりあげたりした。
ライター、えーと、なんだっけかな、ジーポ?だかなんだか知らねえけどそれを五、六個獄寺に「やるよ」と手渡したら獄寺は目をものすげえ丸くして「どこで手に入れたんだこんなの」といって上に掲げたりしげしげと見つめたりしていた。そしてやっぱりいつになっても聞かれるのが「なんでこんなに買う金あんだよ」だ。「んー?まあ昔っからバイトしてたしな、」とテキトーに答える。ツナとかは不思議そうな顔してたけど獄寺やヒバリなんかは「ふーん」と別に興味無さそうだった。おいおい他人に興味ないの丸出しだぞセーカク悪いなおまえら!俺も人ンこといえた立場じゃねえけど。

お相手してた不倫や浮気のオネエサンがたはいつの間にか危ない趣味を持ったオネエサンがたに変わっていた。俺の顔とか雰囲気とかなんだとかで、いじめられたりするオシゴトは回ってくる事はなかったけど、頬をおもいっくそ殴りつけたり髪の毛引っ張ったり窓際とかベランダでセックスしたり顔を水面に沈めたりローソクを垂らしたりした。いや、とかやめて、とか泣かれたりするけどいやいやアンタ、いやだったらこんなこと頼むなよと思う。金払ってまでこいつら何やってんだろ。女ってよくわからん。分かりたくも無いけど。















初めて「分かりたい」って思ったのは獄寺が女を連れて集まりに参加したときだった。俺が小学校の時に好きになった一つ上のオンナノコに似てる、と思ったらどうやらその人物だったらしくて、しかもツナも知り合いだったらしくて「おいリボーン先輩をこんなとこ連れてきていーのかよ!」と焦っていた。けど世界ってのはどうやら広いものではないらしくて、古くから骸とも獄寺のねーちゃんとも知り合いだったことからその先輩、とやらはマフィアの女だったらしい。当の獄寺はそんなこと最初は知りもしなかったらしくて、リボーンに言われてつれてきた時はどうしていいのか俺も分からん、みたいな感じで骸と笑いながら久しぶりねと軽く抱き合う先輩、を複雑そうに心配そうに見ていた。

なんか輝いてるみたいな笑顔が俺に向けられて、先輩、は「はじめまして、山本武くん」と言った。
そうか俺のこと知らねんだ、そうか、と思った俺にむくむくといろんな感情が沸きでできた。むくむく、とかむらむらって、いうんかな、吐きそうになって喉まででかかった時の全身がぞわっとする感覚と、飲み込んでしまったときのひりりとかずくずくした痛みが俺を襲った。このままこの腕を引っ張ってキスしたらこの人はどんな顔をするだろう、とか獄寺はどんな顔するんだろう、とか、唇柔らかそうだ、とか。あああーこれ、なんていうんだっけ?好き?愛してる?ちがうな、なんだろう、もどかしいよ、

「隼人から、いつも聞いてます」我に返るとその人は「ね、隼人」と獄寺に向かって言った。「はぁ?!言ってねえし!」と言い返す獄寺を見て「またまたー」とにこにこ笑うその顔を、別段美人!てわけでもないけど綺麗な、明るい、強い・・とか、俺のボギャブラリーじゃ表しきれん顔を見て、俺は「無理だ」と思った。こんなことは初めてだった。動揺した。そんなもんちゃっちゃと唇奪っちゃって怒って俺に殴りかかってくる獄寺に「わりーわりーついつい」って言ってさんに意味ありげに笑って、それからゆっくり一ヶ月ほどかけて俺のもんにすりゃいいのに、どうしてかできなかった。
「あたし、、でいいよ」「じゃ、さん、よろしく」「うん、よろしくね、山本」







それだけの会話でもうどうにもならなくなった。そろそろイタリアへ旅立つということもあって、というか、そうやって理由付けして責任転嫁したんだけど、セックスするバイトもやめた。俺の手元にはどうしようもない金とどうしようもないよくわからん船の模型とどうしようもない気持ちだけがが残った。















ツナが「不殺」を唱えたのはそれから五年ほどあとのことだった。ありえねーだろ、と思った。だってそれまで俺たち人殺してきたんだぜ。その人の恋人とか、親とか、子供とか、友達とかの恨みはまだ俺たちに降りかかってくるのに。それを殺さないで迎え撃つ?ばかじゃねーのと思った。そう口にしたら獄寺はものすごく俺を殴りたそうな顔をしてそれから拳を振りかぶったけど、また下ろして顔を歪めて、俯いて「しょうがねえだろ、十代目の言う事だ」と呟いた。あまりにも正論すぎて非現実過ぎた。間違ってるわけじゃねえし、それで救えるものも沢山あって、それは俺にも分かっていた。だから、殺しの仕事を隠れて全て引き受ける事にした。まずツナにばれんようにしなくちゃいけねえし、大人数で動く事は不可能だった。それでもやっぱり女手が足りなくて、俺が、誰が持ち出したわけでもないのにいつの間にか、さんが引き受けていた。

さんのの背中とか、腰とか、腕とかに傷とか痣ができるたびに さんにはやっぱやってほしくない、って思う半分共通の秘密を共有した気分になれて少し嬉しかったのかもしれない。ガキだ。わかってる。 だから「俺がやる」と殴りかかってきた獄寺を「お前まで手を汚してどうすんだよ、ちょっとはさんのこと考えてやれよ」と吐き捨てた正論で捩じ伏せた。獄寺はもうどうしたらいいのかわかんねえみたいで地面にうずくまっていた。俺もどうすりゃいいかわからんかった。・・・違う、どうすべきかなんてハナから分かってた。どうにでもしてさんをこんなどろどろしたところから引き剥がしてぽいっと獄寺に預けりゃよかったんだ、そんでこんな汚いこと、俺が全部引き受けりゃよかったんだ、でもやっぱり俺はスーパーマンなんかじゃなくてただの汚い一人の男でしかなくて、どんな形にせよ、さんが、他の男じゃなくて、俺の一番近くにいることが嬉しかった、自分本位だ、傲慢だ、そんなちっぽけなことで、さんの全てを、俺は奪う事になっている。
【全て】だなんて。ほんとに全て奪えたなら、どれほど。どれほど、よかったろう、か













あらかじめ知らせられていたホテルの部屋のドアを二回間を開けてノックする。それが合図。がちゃと扉を開けば、上半身を真っ赤に染めあげたさんが伸びをした状態でこっちをむいてにっこり笑った。綺麗だった。「武」「・・・ん?」「あたしを殴って」ここからは覚えてない。嘘だ。頬骨があたる感触とか、倒れるさんの裸体とか、赤がこびりついた乳房とか覚えている。ただ忘れたいだけだ。「酷いことして」「もっと」「ねえもっと」髪の毛をひっぱって乱暴に立たせてそのまま膣に突っ込む。あんまりぬらぬらしてなかったから一気に入り損ねた。悲鳴とも喘ぎともなんともつかない声を俺を無視して、というか、耳を閉じたようになって、立ったままさんの腰を持ってがくがくと上下に揺らす。「ああああ」ともう何の声だかわかんねえさんの乳房も上下に揺れて、血のこびり付いた乳首を思いっきり爪を立ててねじり上げるとさんは「いやあすみませんごめんなさいもうしませんゆるしてもうしないからいやだいやあごめんなさいごめんなさい」と叫んだ。そんなさんにもう俺は起つどころか萎える寸前?いやまさか、こんなこといやなのにどうにもしたくないのに欲望に満たされた俺の身体はさんを抱いている事には限りなくて、おもいっきり突き上げて中に出した。 ベッドにさんを横たえると、さんは、聞こえるか聞こえないかの声で、呟いた。 はやと。





金じゃあどうにもできんこともある、と初めて知った。人生においての人間の選択は実はごく限られた範囲のみである、?もう少し現代国語の授業ちゃんと聞いときゃよかったな、どうせならもっと早く知りたかったよ。さん。そしたら俺、今頃君の隣に笑って立てたかな。朝のコーヒーを君と笑って飲めたかな。君に優しくキスできたかな。こうやって、バカみたいに壊れたセックスじゃなくて、俺の知らない、俺の夢見てやまない、もっと優しくて愛に満ちたセックスとかできたかな。ねえ。どうにもならないよ。叫びたいよ。今すぐ逃げ出したいよ。昔に戻って小学生の俺に告れってせっつくよ。プロポーズ大作戦だ、よ。知ってるよ。さん。俺はろくでなしの男だから、さんが望む事しか俺はもうしてあげられないよ。助けられないでしょ、俺には。どうにもできないんだろ、俺には。獄寺に恩着せるようなこと、俺にはできないしするつもりもない。精一杯のガキの復讐だ。分かってる、分かってるんだ、でも、どうせさん、どうせなら、今更過ぎるけど、





堕ちろ、そして巡れ、ろくでなし。
2007/05/22