「よ」 後ろから声がした。あたしはげ、って呟いたあと、あ、聞こえたかもって思ったけどきっと聞こえてないだろ、っていう楽観的な答えをはじき出してあたしはローファーをぱっぱと履いて玄関を出た。 「なーなー」 「・・・」 「って、おれと顔合わせたらイヤな顔するよな!」 なんでついてきてるんだろうこの男。不審者です!ってお巡りさんに言いつけてやろうかと思ったけど生憎この男とあたしは同級生という因縁の繋がり方をしている。よって不審者だとはみなされない。よってお巡りさんに言ったところで訝しげな顔をされた挙句あたしのほうが頭がおかしいとみなされて近くの精神病院を紹介されるだろう。 「なー」 「・・・」 「聞いてる?」 「聞いてません」 「そーいうのを聞いてるっていうんだけど」 ほんとに何なのこの男。なんでついてくるんだ。っていうかイヤな顔するって分かってたらこっち来るなよ。ほんと。ああいやだいやだいやだいやだいやだ。歩調を速めても全然引き離せた感覚がない。 「なーなー」 いやだいやだいやだいやだ 「なあ、」 がしっと肩を掴まれた。ひっ!って声が出なかったことが奇跡だ。あたしはちょっと息を呑んで、それから振り返る。眉間の皺が刻みこまれてていいかげんじんじんした。 「何なの」 「おれなんかしたっけ?」 なんもしたもかんもねえよ!引っぱたいて股間を蹴り上げたかったけどできるだけ高校は公立に進学したいので抑えた。よくがんばったあたし。 「・・・ツナを」 「ツナを?」 「ツナをかえしてよ」 ぐらぐら、って体があつくなってくるのがわかる。今すぐこの右拳をこの男の左頬に打ち付けてやりたい。かえせかえせかえせかえせって体中が言ってる。いまあたしきっと瞳孔開いてる。あたしはこの男が、心底、嫌いだし、死んで欲しいと思っている、からだ。 「おれ別にとったりしてねえけど」 首をかしげるその顔が、ああ!これを憎い、っていうのかしら! 「とったわよあんたがあらわれてからあたしはツナの一番じゃないあたしはいつもツナにとって一番ちかい一番だったのにあたしはいままでずっとひとりぼっちのツナの横に居てそしてあたしはこれからもツナの隣にいるはずだったのに!」あんたが、いるから! 奴はきょとん、としてあたしに言った。 「とったもとられたもねえだろ。ツナは物じゃねえよ」 「あんたに言えたセリフじゃないわ」 吐き捨てるように言えば奴は笑って、「酷いなあ」と言った。 「獄寺もいるじゃねえか」 「あの子は違う」 「・・贔屓じゃね?」 「あんたがどんな人間か、あたしには分かる」 奴は頭を掻いてまた「そりゃひでえなあ」と言った。 「ツナのことすきなの?」 「だいすき。獄寺君もすき。でもあんたはだいきらい」 「・・」 「大嫌いよ」 八方美人でいっつもへらへら口先だけの愛想笑いで他人に自分の腹なんて絶対見せないヒーローきどりのあんたなんて。認めてやらない。 「なんかそういうのぞくぞくすんな」 にっと笑った奴の目はいつもの貼り付けた笑いは無くてあたしはさながら蛇に睨まれた蛙のように体中がぞわっとするのを感じた。 その男、危険につき
2007/08/20
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